富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.18
「鰤起こし」ーーー
季節が冬に入る直前に鳴る雷を、氷見弁ではそう表現します。
寒い海に打ち付ける雷が鰤の餌となるプランクトンを海面近くまで誘い出し、
それを追って鰤も普段泳いでいる中層付近(水深100m)から定置網が敷設される程度(水深40-70m)まで上がってきて豊漁になることから名付けられているそうで。
ただ鰤の生態に関しては様々謎が多い(日本のどこで産卵しているのかも、なぜ富山湾付近の鰤が最も脂乗りが良いのかも解明されていない)ことから、
この説を先人たちが生み出した迷信だとする意見もあります。
個人的にはその謎こそが、鰤という魚へのロマンを掻き立てるような気がするのですが。
鰤はとっても“エモい魚“
そんなロマンのない巷で求められる“エビデンス”はさておいて、
氷見に住んでいる人間(氷見のもん)にとっては、
鰤はとっても“エモい魚“なんです。
氷見寒ぶり宣言が出された後は市役所には毎日鰤の水揚げ本数が掲示され、
その増減に町中の氷見のもん達が一喜一憂します。
(自分たちは毎日買うわけでも食べるわけでもないのに)。
厳しく暗い冬を過ごす中で、鰤の漁獲は感情の昂る大きなお祭りなんですよね。
さぁ今年も寒ぶり宣言が発令されました。
このお祭りが一日でも長く続いて多くの人が喜び、
涙し、舌鼓を打つ様子を見守って行けたら。
いや僕も今や氷見のもん。共にエモくなっていこうやないけ!
隠れた一押し
さてそんな寒ぶりの陰に隠れた、
私一押しの冬の魚は「寒メジナ」。
氷見ではグレ・ツカイダイなんて別称もあります。
氷見の定置網からは一年中獲れる魚ですが、この季節のものは脂乗り抜群。
腹身付近を捌いていると脂で手が光ってきます。
しかし氷見では人気がないお魚で、
実際氷見の魚屋で買おうとした際に店主に「そんなもん買うがか(買うのか)???」と言われたこともあります。
原因は夏に獲れるメジナの磯臭さなのかなと。
メジナは元々雑食性なのですが、夏は甲殻類などの動物性の餌を食べて身に臭みが出るそうで。
ただ冬のメジナは海藻類などの植物性の餌を主に食べるようになることから、
身質が変わり磯臭さが軽減されるようなのです。
寒ぶりに続いてつらつらと御託を並べてしまいましたが、
冬のメジナ「寒メジナ」の脂乗りや旨味はただただ絶品。
食わず嫌いせずぜひ一度ご賞味あれ。
さて本日は冬の魚を丸ごと一匹味わえるレシピをご紹介。
材料
・白身魚の切り身 1尾分
・白身魚のアラ 1尾分
・大根 1/4本
・水菜 2束
・昆布 2g
・生姜 1/2かけ(無ければ生姜チューブ大さじ1)
・酒 大さじ2
・塩 適量・水 700ml
作り方
❶鍋に水と昆布を入れ、1時間程浸水させます。切り身は塩を振り、10分ほど置いたら水気をとり、一口大に切っておく。アラはボウルに入れ、熱湯にくぐらせたら冷水につけ、残った血やウロコを取り除く。
❷ ❶の鍋にアラと酒を加え、中火にかける。軽く沸騰してきたら昆布を取り出し、灰汁をとりながら弱火で更に10分ほど煮たのち、アラをこし器で取り出したらだし汁の完成。
❸だし汁を再び中火にかけ、薄くいちょう切りにした大根を入れて煮る。大根が柔らかくなったら、切り身と食べやすい大きさに切った水菜を加える。
❹切り身に火が通ったら、すりおろした生姜を加え、塩で味を調えたら出来上がり。
アラから出る出汁、身の柔らかさと脂乗りが同時に味わえる贅沢スープ。ぜひお試しください。
魚料理研究家【昆布】
魚料理研究家。本名: 近森光雄、1993年東京都下町生まれ。
大学卒業後、魚屋に3年半勤務。旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。
サウナを愛するあまり、スーパー銭湯の近くに住んでいる。