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富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.28

「洗濯物が乾かないなぁ~」
今朝は、妻のそんな悲鳴交じりの声で目覚めました。

基本的に僕の家は服を部屋干ししており(晴れの日であっても)、いつも夜のうちに干して翌朝取り込んでいます。
気温の高い夏は一晩で乾いてしまうのですが、寒い冬の間は生乾きが当たり前。
つまり乾きずらくなってくる今頃は、季節が着々と秋へと変わっていくことを意味しているのです。

今後1週間の天気を調べてみると、雨の日が多くなり、最高気温は25~26度。最低気温は20度を下回る日も。
あれだけうっとうしかった日差しや暑さが今や恋しく思います。
冬の寒さを恋しくなる春はないのに、夏の暑さを惜しむ秋があるのは僕だけでしょうか。
この感情は単なる物悲しい秋の情緒なのかしら、それとも夏が遠ざかった先にある冬への恐れなのかしらん。

そんなどうでも良いことを日々考えながらカレーやカルパッチョを作っています。
何かしらの答えは今後の生活の中にあるのかな、と未来に丸投げして目の前の一皿・一匹に向き合う、もうすぐ30歳の秋であります。

氷見の施設をご紹介

さて、そんなブルーだかグレーだかよくわからない辛気臭い感情をいつまでも引きずっているわけにもいかないので、こんな雨の日の続く日でも、行くと思わず気分がオレンジやらイエローやらになってしまうような、氷見の施設をご紹介します。

それこそ、当店サカナとサウナ HOTEL&DINERの目と鼻の先、徒歩一分の位置にある「漁業文化交流センター」です。
古くはここには氷見漁港のセリ場があり、この建物はそれが移転したのちの跡地に建てられました。
昔を知る人曰く、もともとは「氷見フィッシャーマンズワーフ海鮮館」という名称の魚の直売所兼地域の物産品の販売所だったそうで、とてもたくさんの観光客で賑わっていたとのこと。
2012年にその道の駅のような機能が現在のひみ番屋街に移された後に改修され、現在は富山湾における氷見の漁業を楽しく学べる施設として生まれ変わりました。

ゲーム感覚で見て触って学べる体験型の装置の数々や、かつて使われていた漁具や漁船、漁師たちが船上での食事に使っていた食器など貴重なものの数々が展示されています。

氷見の漁業の象徴

圧巻なのは、館内の天井に所狭しと敷設されている越中式定置網。時代の移り変わりと共に幾多の改良が重ねられ、きわめて効率的に魚が獲れるように設計されたこの定理網は、現在の漁でも使われています。
まさに氷見の漁業の象徴とも言えるこの巨大な定置網を見上げながら館内を歩いていると、自分自身が魚になったような気分になり、ここからは中々逃れられないよなぁと半ば怖くなったりもして。

そして僕がひそかに気に入っているのが、海の図書館コーナー。
富山湾に関する様々な資料が置いてあるのはもちろん、魚の図鑑やうまく魚を捌くためのハウトゥー本、お寿司をはじめとする魚料理のレシピ本まで置いてあります。
その片隅には、なぜか僕の好きな「海辺のカフカ」や「潮騒」などの小説も。なぜここに?と一瞬混乱したのですが、全ての小説のタイトルには海や魚に関するワードが含まれていて…笑。

こんな遊び心も込みで楽しい漁業文化交流センター。
ぜひサカナとサウナご来店のついでにお立ち寄りくださいませ。

閑話休題。

一番大切な富山湾のお魚の話をば。
先月にも増して秋めいてきた富山湾からは、様々な秋魚がお目見え。
丸々と太って皮ごとあぶって刺身にしたら美味しそうなカマス、透き通った身質のシイラ、とろけるような食感と甘味が抜群のアオリイカ。
日に日に上質な魚がより多く水揚げされるようになっています。

大トロのような味わいに

その中でも今シーズン当店で一番頻繁に登場しているのは、バショウカジキ。

カジキの一種で、背ビレが芭蕉の葉のように広がっていることから名づけられています。
「毎年この時期に多く水揚げされることから、カジキの中でも比較的安価。味は癖がない分、非常に淡白なお魚という印象。」

とその程度にしか思っていなかったのですが、今年は近隣の料理人の方からカジキの脱水についてアドバイスを受けたところ、その印象に大きな変化が。
塩を振って脱水シートで1〜2日程度寝かせると余計な水分が取れて味が濃くなり、腹身はまるで本マグロの大トロのような味わいに!
ひと手間で、淡白だったバショウカジキが何倍もの金額の魚に引けを取らない味に変貌するさまに、半ば感動を覚えると同時に料理人の技の凄みを感じました。

そんな脱水熟成カジキは、ディナータイムのアラカルトにてカルパッチョに。
同じく旬の金時草やすだちと共に、秋を感じる一皿に仕上げています。

2階サウナホテルにご宿泊のお客さまには、しゃぶしゃぶでご提供。
魚のアラや野菜、昆布でとった特製の魚々出汁(ととだし)にくぐらせると、脱水した分カジキは多く出汁を吸収してより深い味わいに。

バショウカジキの可能性はまだまだこんなもんじゃないような気がしてくる今シーズン。

それは他の秋魚にも当てはまることなのかも?
いくら時間があっても足らない魚料理研究の日々。毎年少しずつ解き明かしていこうじゃあーりませんか。
ぜひ、お付き合いを。

魚料理研究家【昆布】

東京都葛飾区出身、1993年生まれ。
大学卒業後、大手スーパーの鮮魚部に勤務。
旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
2023年8月には、魚料理専門店「サカナとサウナ HOTEL&DINER」を開店。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。