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富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.27

朝の6時前、いつも通り早く起きすぎる息子と散歩に出かけると、いつもより日差しが柔らかく感じました。更に歩を進めて日陰に入ると、突如身体がヒンヤリとした空気をまとい、なんともいえない心地よさを感じたのです。

まだまだ夏は・・・

『もしや…秋が来ているのかな…?』
なんて少しワクワクした心持ちで引き続き歩いていると、こうべをたれ始めた稲穂が広がる水田にたどり着きました。
『これは…確実に秋が来ようとしている!』
なんて明らかな早とちりをしたのも束の間、その後刻一刻と日差しは強まっていき、30分の散歩を終えるとTシャツは胸に張り付き、前髪は額に張り付く散々な始末。
その日の最高気温は結局34℃。猛暑日目前の真夏日。まだまだ夏は終わりませんね。
聞き損ねているクラシックな夏の名曲をお店で流しながら、まだまだ夏の陽気に揺れていようと思います。

さて、そんな暑さに負けない熱い施設を完成させたワタクシ。
ついに2Fのサウナホテルが竣工し、8/26に1Fの魚料理専門店と共にグランドオープンをしました。

オープニングパーティ

当日はオープニングパーティと称して、沢山のボランティアスタッフや、富山のヒップホップグループ『ザ・おめでたズ』、多彩なDJたちにご協力いただき、約100名ものお客さんを迎えました。
昼から夕方まで音楽を鳴らし続けながら、魚料理をフリーでご提供し、様々な笑顔に溢れる幸せなイベントになったのではないかな、と。

お出ししたのは、カマスのアクアパッツァや、ヘダイとフクラギの氷見醤油カルバッチョ、シイラのタンドリーチキン風などなど。様々な調理法を駆使して、富山湾の魚の多彩な旨さを提案するような料理を取り揃えました。

パーティの最中、特に好評だったカルパッチョを補充していた際、DJの流すダンスミュージックに揺られながら、柳刃で刺身を切っている自分の状況を急に俯瞰で捉えた瞬間がありました。
その時にふと、『8年前魚屋に入った時に、こんな未来がやって来るなんて想像もしなかったよな〜』なんてしみじみ。

改めて面白い人生を歩んでるな、と自分で自分を誇らしくなったのです。

サウナホテルのお披露目会

そして、オープニングパーティ中の2階では、サウナホテルのお披露目会を行いました。

浴室内の目玉は、やっぱりサウナ。くすりの県とやまにちなんだ漢方ロウリュが目玉のサウナ室と、呉東方面の富山湾の形をモチーフにした内気浴ベンチ。富山の魅力を全身で感じながらととのいへ。

ベッドルーム内に設置したフィッシュレザーのランプシェードは、ブリやクロダイなどの皮がふんだんに使われており、富山湾の魚の豊かさが感じられるものになっています。

窓からは、漁港や製氷工場、町屋や海など、魚のまちならではの景色を見ることができ、より氷見というまちに溶け込んでいるような気分に。
こんな形で、富山湾と富山氷見の様々な魅力を独り占めできる施設となりました。ぜひ一度泊まりに来てくださいね。

不漁の日の一コマ

さて、そんな魅力的な富山湾なのですが、8月の漁獲は散々たるもので。獲れる魚種も量も少なく、毎日メニューの構成に頭を悩ませていました。
そんな不漁を象徴するエピソードが一つ。

ある朝魚屋さんに向かうと、本来一番の目玉魚が置かれるべきスペースには、レタスとポテトチップスが置かれていました。驚きのあまり魚屋のお母さんに理由を尋ねると、「なんも置くもん無いから、どうにかして埋めとるん!」とのこと。

そしてお父さん曰く、「こんなに魚が獲れんのは初めてやわ!」
この言葉に関してはお父さんから決まり文句のように毎夏聞いている気がするので、あんまり真剣には捉えていないのですが笑。

ただ、もしこの言葉が本当だとしたら、これからの富山湾はどうなっていくのでしょうか。
すこしでも持続可能な海であるように、ただの飲食店のイチ店主ながらも何かしら行動に移していかないといけないなぁと感じた、不漁の日の一コマでありました。

おすすめはカンパチ

その後9月に入ると多少は獲れる魚種が増えてきました。コズクラやフクラギなどのブリの幼魚が町中の魚屋さんの店先に並んでいるのを見ると、ブリのお出ましもそんなに遠い未来では無いように感じます。

そんな徐々に秋めいてきた富山湾の魚の中で、僕がおすすめなのはカンパチ。
回転ずしや大手スーパーでもよく見かける魚ですが、その多くは養殖もの。脂乗りがしっかりとしているのが特徴で、照り焼きなどの濃い目の味付けにしても魚の味が負けないことが特徴です。
それに比べて氷見で漁獲される天然もののカンパチは、脂が少なくすっきりとした旨味が特徴。白身の魚と遜色のないぐらい上品な味わいです。

ある日、同じく秋に獲れる梨とカンパチを合わせたカルパッチョを思い付きで作ってみると、スッキリとした甘味と旨味が重なり合い、素晴らしい味わいになりました。
ただレギュラーメニューにするには突飛すぎるので、食べてみたい方は事前にお問い合わせくださいませ。
旬が重なる感動を(多分)お届けできるかと思いす。(ちょっと言い過ぎたかも)。

魚料理研究家。本名: 近森光雄、1993年東京都下町生まれ。

大学卒業後、魚屋に3年半勤務。旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。

サウナを愛するあまり、スーパー銭湯の近くに住んでいる。