富山県氷見在住の魚料理研究家「昆布」による連載コラムvol.30
いつも当コラムをご覧いただきありがとうございます。
わたくし、氷見にて「サカナとサウナ HOTEL&DINER」という施設を運営をしております。
姓は近森、名は光雄。
人呼んで魚料理研究家の昆布と発します。
出身地の東京下町から移住して約4年。
魚と料理、サウナに携わりながら、海のそばにて遮二無二生きております。
これからもどうぞお付き合いを―――
――――ふぅここらでかしこまったご挨拶(寅さん風)は小休止。
なぜいつもとは違った形で始まったのかと言いますと、当記事にて海と日本PROJECTさんのHPにて書いてきたコラムが、30記事目に到達したからなのです。
これまで読んでいただいてきた皆様、そして編集を担当していただいた富山テレビの担当者の皆さん(福井さん・小林さん・明さん・江尻さん)のおかげで続いてきたこの連載。
本当に感謝しておりまして、そんな気持ちを少し襟を正したような挨拶に乗せてみた次第、なのです。
およそ2年半の月日が経ち
1か月に1本掲載していただいていますので、始めてからおよそ2年半の月日が経ったということで。
このコラムが始まったのは、前店「サカナとサウナ SEAFOOD STAND」が開店してすぐの頃でした。
店が本当にうまく運営できるのか不安な日々を過ごしていた時に、当時の担当者さんより「ご自身を取り巻く氷見の環境や富山湾の魚について書いてください!」とのご依頼が。
僕自身元々文章を書くことが好きで、その当時は自作のフリーペーパーにてコラムのようなものを書いていたのですが、このご依頼によって初めて文章を書くことが仕事になりました。
それから2年半。
どうにか店は軌道に乗り、当時付き合っていた彼女と結婚することができ、その後子供が生まれ、そして店を移転して念願のサウナが併設された飲食施設を立ち上げることができました。
僕の人生にとって重要な出来事が重なったこの密度の濃い時期に、ただひたすらに書き続けた氷見と魚と自分との交わりの記録が、このコラムにつまっています。
バックナンバーは「海と日本PROJECT in 富山県」内の検索バーで「魚料理研究家」を検索すれば全てアクセス可能です。
2年半前の初々しい記事を見られるのは少々気恥ずかしいですが、富山湾の側でがむしゃらに生き、そして何かを表現しようとしていた姿を、ぜひ温かい目で見ていただければ嬉しいです。
当時はまだ20代だった自分も…
そんな2年半を過ごした結果、開始当時はまだ20代だった自分もついに今年の11月で30歳になりました。
感慨深いようなそうでもないような不思議な感覚ですが、これより先は変な見栄や肩肘を張らず、より生活感を出した文章を書けたら良いなと思っています。
さて、先日は30歳のお祝いに家族で黒部市の宇奈月まで行ってきました。
せっかくの旅行なのでいつもとは違う景色が見たいと山側へ行ってきたのですが、途中にちらりと見えた黒部の海に、「海だー!」なんて妻と共に思わず興奮してしまいました。ちなみに黒部の漁場は氷見とは違い急激に深くなる地形になっているそうで、げんげなどの深海魚が獲れるんだとか。
しかし黒部の直売所や魚屋さんに出向いてそんな魚の違いを確かめる時間を、息子は与えてはくれません。支えられながらではあるものの、息子は最近ようやく歩けるようになったのが嬉しいのか、手をひいて一緒のお散歩を常にねだってきます。山の近くで枯葉を踏みしめながら興奮して歩く姿はなんともかわいらしく、僕もこの日ばかりは魚と海のことは忘れて家族との時間を楽しみました(泊まった宇奈月のお宿のバイキングではやっぱり魚を多めに食べはしたけれど)。
翌日は立山町へ移動し、妻からのプレゼントであるパン作り体験へ。
出来上がったのは僕が作ったフォカッチャと、妻がサプライズで作ってくれた30をかたどった数字パン。
30歳、30記事。
僕にとって大切な節目に、とても嬉しいプレゼントをもらいました。
その後氷見へと帰る道すがら、こんな家族と共になんとか30代もその先も楽しく氷見で生きていければ、働いていければと切に思ったのでした。
氷見ぶりのとてつもない魅力
閑話休題。
そろそろ海と魚を思い出して、メインの話題をば。
この記事を執筆時点ではまだ氷見寒ぶり宣言は出ていませんが、氷見漁港では丸々としたブリが揚がり始めました。
個体にもよるのですが、今の時期に10キロを超えるとかなり脂乗りもよく、刺身で食べると口の中でとろけるような食感を楽しめます。
しかしブリを買おうとすると基本的には一尾または半身分買わなければなりません。前店の規模ではその量をロスなく消化するのが難しく、これまでは魚屋さんで余ったカマや頭、胃袋を使ってなんとかブリ料理をご提供していました。
今のお店になってからはご飲食の方に加えてご宿泊の方も増えたことから、ブリをなんとか半身分仕入れることができ、近頃は日々ブリの状態と相場に向き合っている毎日です。美味しくかつ効率よく消化できるよう、ブリに対して様々な調理法を試している中で、料理のバリエーションが日に日に増えてきました。おすすめは柚子みそベースのソースで頂くカルパッチョや、ネギやショウガ等の和食材とともに低温で火を通す和コンフィ。八角などのスパイスとともに煮込む角煮風煮つけなどなど。
しかしなんといっても一番のおすすめは、ぶりしゃぶ。
厚めに切ったぶりを氷見の魚・野菜・昆布でとった出汁にくぐらせ、当店オリジナルの氷見稲積梅入りのポン酢でさっぱりと召し上がっていただきます。
軽く火が通ることによってぶりの脂が柔らかくなり、より口の中でとろけるような食感が。そして噛むたびに氷見ぶり特有の旨味の波が押し寄せ、一切れ食べるごとに感動があるんです。
やっぱり氷見の最高の素材はブリなのかしら。
ぶりに匹敵する魚を年間を通して追い求めてきましたが、こうやって正面からぶりに向き合っていると、改めて氷見ぶりのとてつもない魅力に気づかされます。
いやはや、これから長い付き合いになりそうです。
氷見ぶりさん、毎年の大漁を何卒よろしくお願いいたします。(何卒…!!!)
魚料理研究家【昆布】
東京都葛飾区出身、1993年生まれ。
大学卒業後、大手スーパーの鮮魚部に勤務。
旅行で訪れた富山県氷見のあまりにも新鮮な魚に一目ぼれし、2019年10月氷見へ移住。
2023年8月には、魚料理専門店「サカナとサウナ HOTEL&DINER」を開店。
地元の魚屋・漁師・料理人と語らいながら、日々魚料理の新たな可能性を素材と調理法の両面から研究中。